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あし@


呼び声

 土曜日の夕方、僕は鹿児島市の中心地から少し外れた古い商店街を歩いていた。

 昔は賑わいを見せていたであろうその街も、今では下ろされたシャッターが目立ち、米屋、煙草屋、花屋、クリーニング屋などが、ぽつりぽつりと店を開いている状態。

 猛暑も日が傾くにつれ峠を過ぎ、近所のおかみさん同士の立ち話がどこからか聞こえてきた。

 ふと会話が途切れ、誰かを呼ぶ声が響いた。

 「おねえちゃーん」

 僕にとって、それは単なる環境ノイズだったのだが、「おねえちゃん、おねえちゃん、おねえちゃーん」と、繰り返されるうちに、それが言葉として耳に入ってきた。何事だろうと思い振り返った。

 すると…、

 声の主の視線は、まっすぐ僕を捕らえている。

 尚且つ、それでも僕を「おねえちゃん」だと思い込んで話しかけてくる。

 そこでハタと気づいた。

 そのとき僕は、炎天下を長時間歩くため、バテないように頭にタオルを巻き、アラブ人女性のように顔が隠れるような格好をしていた。男性としては肩幅が狭いほうで胸板も薄い(そのせいか、ほんのたまに、後姿を女性と見まがわれることがある。後ろから「おばちゃん」とか「奥さん」とか呼びかけられてムッとしたこともある)。

 そこで、ちょっとイタズラ心が…。

 頭に巻いたタオルをバサッと取り払いつつ、

 「おねえちゃんじゃなくてオジサンだけど」

 御婦人お二方、一瞬「ハトに豆鉄砲」状態。ちょっと遅れて大爆笑。

 「あはははは〜〜!」

 「こんなオレンジ色のティーシャツなんか着てるから、女性だと思ったんでしょ?」

 「いや、しぐさがなんか」

 しぐさ?

 仕草が女性っぽいわけがない。僕はただ歩いていただけなのだ。



 *** *** *** *** 



 ちょっと 後ろ姿なんぞ 鏡に映して撮影してみた。


後ろ姿(30%)


 髪が長いのは、単に床屋に行くのをサボっているため。




 顔はこんなだし…。





PIC_0020(30%)

ちょっとしたこと

 スーパーやコンビニのレジ前に行ったとき、並んでいる人がいなかった場合、店員さんに対して「こんにちは」とか「こんばんは」などという挨拶が口をついて出る。大抵の人はそれに応えるものだが、1人だけそうでない店員がいた。たまに行くリカーショップの30代と思しき男性。

 見たところ、決して内気そうなタイプではない。170センチくらいの、浅黒い顔をしたきちんとした身なりの並以上の良い男である。どんなつもりで挨拶を返さないのかが分からず、最初の頃はちょっとムッとしたものだが、そのうち慣れっこになってしまった。

 もしかすると、レジで自分の方から挨拶する客などほとんどいないのかもしれない。マニュアルから外れた行動に出ると、対応しきれない単純君なのかなぁ…、などと思ったりしたが、そのうち、そんなことも考えなくなり、行く度に、反応を期待することもなく、習慣的に「こんにちは」という言葉を口にしていた…、

 のである…、が…。

 1週間ほど前、その店員の口から「こんにちは」という声を聞いた。ごく普通のことなのだが、彼の口からきこえた「こんにちは」は却って意外に感じた。

 「なんやぁ、やればできるじゃないか…」

 乾いた気持ちでそんなことを思いながら、別段嬉しく感じることもなく「こんにちは」と返した。

 やっぱし、マニュアルからはずれる対応は、難しかったのかなぁ…。

 彼がその一言を発するまでに、どのくらい時が経ったか…。半年ぐらいだったような気もするのだが、たぶんそれはこちらが気分的に感じた時間であって、もっと短かったのかもしれない。2〜3ヶ月くらいかな?

 ところで、4年前にUターンして以来、道を歩いていて小学生や中学生から挨拶されることが良くあって、そんなときは実に気分が良い。自分が子供のころは、そんなことは無かったので、もしかすると、もしかすると最近は学校でそういう指導をするようになったのかも知れない。そうだとしても、そうでなかったとしても、これは良い傾向だと思う。

ちょっとした偶然

 午前10時ごろ、鹿児島中央駅付近の街路を歩いていたら、自転車で近づいてきた青年から親しげに挨拶された。

 ― 知っている顔だ。でも誰だったかな…。

 一瞬遅れて思い出した。近所のスーパーのアルバイト店員だ。深夜0時から朝8時までの夜勤。
 記憶の中の彼は、いつも制服姿で店の中にいるわけで、そこから遠く離れた場所に、制服無しでいきなり現れると、ちょっと不思議な気分だ。

 彼にとっては、それ以上に不思議だったかも知れない。勤務を終え、約2キロ離れたアパートに自転車でたどり着いてみると、その前を馴染みの客が歩いていたのだから…。

「ここに住んでるの?」
「はい。家賃が安くて割と広いのでいいですよ」
「へえ…、場所的にもいいね。駅のすぐそばだし…。でも、旅行してる暇なんか無いだろうねぇ」
「はい、そうですね」

 たまに起こるこういう偶然も、ちょっと新鮮で面白い。
 証明写真が必要になり、撮影する前に、まずは床屋に行くことにした。美容室にしなかったのは、夏から伸ばしているヒゲにも手を入れてもらいたかったから。
 鹿児島に帰って4年経つが、いつも自分で髪を切っていたので、どの店に行ったらよいのか判断しようがない。個人経営の店より店員数名を雇っている大きい店の方が無難だろうと、適当に見当を付けて行ってみた。

 久々の床屋体験は、髭剃りクリームを塗ってもらう感じとか、顔に剃刀を当てたれる感覚、そして、洗髪の際、前屈みの姿勢になることとか、実に懐かしかった。たまに髪を切ってもらうにしても、いつも美容室に行っていたことに、今更ながら気づかされた。記憶を辿ってみると、最後に行ったのは、たぶん20年ぐらい前だったと思う。

 子供のころは、じっとしているのが退屈で、床屋は嫌いだったものだが、久しぶりの理髪店体験は、雑談を楽しんでいるうちに、あっさりと終了。カット、シャンプー、ブロー、それにマッサージが付いて、請求された料金は1,800円。
「え?それだけ?」
 お得感満点なのだ。
 でも、20代ソコソコの男性店員が「まだ60代じゃないですよね?」と訊いたのには「おいおい!」。60歳以上だと割引サービスがあるので一応確かめたようなのだが、いくらなんでも60代は無いでしょう(笑)
 ヒゲを伸ばし始めたのには、童顔を51歳という年相応の老け顔に見せてやろうという魂胆が含まれていたのも確かなのだが、行き過ぎると笑いが出てしまう。

 20年ぶりの床屋体験は、人生初の「60代かと問われた体験」でもあった。

寒くて暖かい日

 ここ数日、全国的に気温が低く、昨日は、テレビのニュース映像で、青森の大雪の様子を伝えていた。

 鹿児島も、それなりに寒く、年の瀬が迫っているような錯覚に陥る。具体的な数字を見てみると、1日の最高気温は平年より1℃前後低い程度だが、最低気温が、2〜3℃低い。

 特に寒く感じたのが3日前、24日木曜日。最低気温6.4℃。平年は9.8℃である。体感的にこの差は大きい。昨日出勤した時にも、仕事仲間とこの数日の寒さのことが話題になった。

 毎月下旬になると、仕事で外を歩き回っている。昨日は天気も好く、日差しがまぶしかった。空気はひんやりとしているのだが、日光を浴びていると体が直接温められる。午前中は、上着1枚を着るか脱ぐかの判断に困った。

 正午過ぎは気温も平年並みに上がったのではないかと思う。僕は、Tシャツ1枚になって歩いていた。
 そんな格好は、ハードに歩き回っている僕だけかと思ったら、白のTシャツ姿の若者を1名目撃した。やはり日中は暑かったようだ。

 4年前まで住んでいた長野では考えられないのはもちろんだが、鹿児島にしても、この時季にTシャツ1枚って、この4年間にあったかなぁ…。

 本日の朝刊で確認したところ、昨日の最高気温は21℃、最低気温は8.6℃。最高気温は平年を3℃上回り、最低気温は平年を1℃下回っている。
 寒くもあり、暖かくもある1日だった。

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