ビートルズを真似た和製ビート・ポップ・バンド、グループ・サウンズがブームとなり始めた中でデビューしたザ・タイガース。ジュリーこと沢田研二の甘い歌声と端正なルックスが少女達の人気を集め、あっという間にトップ・グループに上り詰めます。『君だけに愛を』で、その沢田の“指差しポーズ”が、ファンの少女たちを熱狂させ、同時に大人たちの顰蹙を買った後に発表されたのが、この『花の首飾り』でした。
歌詞は、雑誌『明星』で一般公募されたもので、当初は『銀河のロマンス』のB面として発表されましたが、ラジオ番組でリクエストが殺到し始めると、シングルレコードのジャケットも変更され、「両A面」扱いになりました。
ロシア文学『白鳥の湖』を思わせるメルヘンの世界。曲調もそれまで沢田の陰に隠れていたトッポこと加橋かつみのハイトーンヴォイスの魅力を十二分に引き出すもので、突如として出現した彼の人気も急上昇します。「タイガースは嫌いだが、この曲は好き」という新しいファン層を獲得し、結果として、タイガース名義で発表された全シングル中、最も売れた曲となったのです。
この事実を、沢田研二は後に「リード・シンガーだった自分にとって屈辱的なことだった」と語っています。「売上の中には、『銀河のロマンス』を聴きたくて買った人の分も含まれているはず」と、証言が具体的なところからもその気持ちが強く伝わってきます。
この動画を見ると、リード・ヴォーカルをとっている加橋の生き生きとした表情と、沢田研二の気抜けしたような表情が対照的で、それが強い印象を残します。
グラビア・アイドル、ジュリーを前面に打ち出し、歌うことよりも写真撮影やテレビ局、芸能雑誌の取材に明け暮れることに嫌気が差していた加橋は、『花の首飾り』のヒットで自信を得て、この頃から、タイガースを辞めたい意向をメンバーにもプロダクションにも伝えています。
人気獲得のためのイメージ戦略として、「友情に裏打ちされた固い結束」を打ち出していたため、メンバー間の亀裂はプロダクションにとっても望ましいものではありませんでした。
しかし、その作られたイメージを保持し続けるのもその1年後には限界に達し、リハーサル中、加橋が突然姿を消し、そのまま除名となるという騒動が勃発します。
これは後に、プロダクションによって準備された茶番であることが明らかにされます。「芸術家肌で、自分の理想実現に向かって突き進みたいトッポが、それを貫くために姿をくらまし、残されたメンバーが途方に暮れる」という準備された筋書きを皆が演じたのです。気まぐれで失踪したはずの加橋は、それからわずか1ヵ月後にはパリでソロ・アルバムをレコーディングしています。事の運び具合からも、脱退以前から準備が進められていたことが伺われます。
※この動画で、正規盤より手の込んだアレンジがあったことを初めて知りました。