国構えの中に「有」と書く文字がある。
そのことを知ったのは、この1~2年のこと。鹿児島市のある町で見かけた表札に、その文字が刻まれていた。
「こんな字もあるのか…」
一瞬、時が止まったみたいに、その文字を、恍惚状態で見つめてしまった。
囿
音読みだと「ユウ」になりそうだが、訓読みや意味は、見当もつかない。
PCを使って、国構えの漢字の中から拾い出し、goo辞書の検索欄に貼り付けて検索ボタンをクリックしたが、出てきたのは「検索結果 0件でした」という表示。
次に、Googleで検索してみたら、Wiktionaryという、Wikipediaの辞書版みたいなサイトがヒットした。
音読み
呉音 : イク(ヰク)、ウ
漢音 : イク(ヰク)、ユウ(イウ)
訓読み
その
字義に関する情報は、まったく記されていなかったが、訓読みが「その」であることは分かった。
「内囿」
この苗字、どうやら「うちぞの」と読むらしい。
読み方が分かると、その響きは、いかにも鹿児島らしい苗字だ。
大園、小園、中園、有園、外園、内園など、「園」の文字を含む苗字、あるいは、大薗、小薗、中薗のように草冠付きの「薗」の字を含む苗字は、鹿児島に多数存在する。そこに加えて、もうひとつの「その」を含む苗字の存在を、今ごろになって知ることとなった。
この「囿」を含む苗字、調べてみると、
大囿、中囿、小囿、中囿、上囿など、「園」や「薗」などと同じように、鹿児島には多数存在している模様。
※こちらのサイトにある検索欄にコピペしてみると、各苗字の分布が分かって面白い。
http://www2.nipponsoft.co.jp/bldoko/index.asp ここで、一旦話は変わって、今年(2009年)1月に、「鹿児島の名字」というタイトルの本を自費出版された方がいらっしゃる。 姶良町に住む肥後卓生さん。2001年に、鹿児島県職員を退職されている。
出版後すぐに鹿児島の地方紙にそのことが記事として掲載されていたので、ご本人に連絡を取り、i実費にて1部分けて譲り頂いた。
その本の中で、この「囿」の字を含む苗字も取り上げられていて、それによると、全国の電話帳に335件掲載されている中で、鹿児島県が211件、さらにその中の約80%にあたる167件が、薩摩郡さつま町在住者で占められているとのこと。
鹿児島県以外の掲載分は、大阪、兵庫、愛知、東京など、鹿児島県からの人口流出先がほとんどであることから、さつま町が発祥地ではないかと考えられる。
もし、周囲に、「囿」の含まれる苗字の方がいらっしゃったら、「鹿児島県さつま町のご出身ですか?」と訊いてみると、驚かれるかもしれない。
ところで、この「囿」の文字を苗字に含む人、たとえば内囿さん本人は、物心付くころから「囿」という文字に慣れ親しんでいるわけで、当然ごく普通に、「その」と読んでいるはず。しかし、成人後、なが~い年月を経てからその文字に出会った僕は、読み方についての知識は得たものの、その後「囿」という文字を見ても、「その」と読めるようにはなっていない。
たとえば、いきなり「八日囿」という文字列を見たときに、瞬間的には「ようか」の後に、なんか見慣れない形、㈱ とか ① みたいに、「有」という文字を四角で囲ってあるような記号がくっついているように見えてしまう。一瞬遅れて「あ、これは『その』と読むんだ」と自分に言い聞かせ、ようやく「ようかぞの」という読みに到達するといった具合なのだ。
思えば小学生の頃、初めて「ゑ」の文字を見たとき「る」にしか見えなかったが、その後すぐに「え」という響きと結びつくようになった。それと同じように、「囿」という字を見て、なんのプロセスも経ずして「その」とすんなり読める時が、今後果たしてやってくるのだろうか? ネイティヴな言語感覚取得能力は、12歳を過ぎると消えてしまうと言われている。そんなわけで、たぶんいつまでも、その文字は「国構えに有」にしか見えないような気がする。
=== === === === === === ===
スポンサーサイト