初めてのぼる屋のラーメンを食べた。1947(昭和22)年創業の鹿児島市内でいちばん古いラーメン屋である。木造2階建ての古い建物は、創業時そのままの物と思われる。県外のファンも多い。

■この店構えにして有名店なり。
創業者の故・道岡ツナさんが横浜で看護婦をしていたときに、患者だった中国人料理人から、お礼としてスープの作り方を教わった。それをもとに帰郷後、試行錯誤し「のぼる屋」独自のラーメンを完成させた。

■大きなどんぶりにスープたっぷりの大盛りサイズで出てくる。
スープは、豚骨が中心で、トリガラや野菜も使い(魚介系も使われていると聞いたことがある)、じっくり炊き出した優しい風味。麺は鹹水を使わない白っぽい太麺。道岡さんが鹹水嫌いで、こういう形になったらしい。太いラーメンというより、細いうどんにモチモチとした食感が加わったという表現のほうが近いかもしれない。その当時の味を、割烹着姿のおばあちゃん達が現在に至るまで、変わらず守り抜いている。メニューはラーメンのみで、1杯千円。この価格もしばしば話題になる。
僕は、生まれてから19歳までを故郷・鹿児島で過ごしている。その間、何度となく鹿児島のラーメンを食べているわけで、その体験から何となく「鹿児島ラーメン」のイメージが形作られていた。とんこつベースの白濁したスープに白い中太のストレート麺、モヤシ、ネギ、少量のキャベツにチャーシューが2切れ程トッピングされている。僕にとっての鹿児島の平均的かつ懐かしいラーメン像は、そんなところである。
「のぼる屋」のラーメンは、そういったイメージからはかけ離れている。鹿児島ラーメンのルーツとする見方もあるが、この独特のラーメンは、他店へほとんど影響を与えていないので「ルーツ」とは言えないだろう。それは、前日に初めて食べた昭和25年創業の「こむらさき」にも言えることで、他とは全く違う独自の麺料理という感じだ。
店の雰囲気とラーメンには、何か共通の風情があるように思えた。のぼる屋が創業したのは、僕が生まれる遥か以前の昭和20年代初期。現在とでは、食習慣もかなり異なっている。料理に対して人々が求めるものもかなり違っていたような気がする。60年間も同じ味を守ってきたラーメンを食べながら、戦後間もない鹿児島を想像し、不思議なタイムスリップ感に取り付かれていた。麺もスープも、一口で鮮やかな印象を残すような強烈な個性をアピールしてはこない。あっさり味のスープは、地味でまろやかな中から、じわっと豊かな自然の旨みが伝わってくる。
決して綺麗とは言えない古い店舗で、メニューは1杯千円のラーメンのみという、商売としてはかなり難しい条件の下で、時代の変化という潮流に呑み込まれることなく人々に支持され続けてきた事実に対して、敬意を払わずにはいられなかった。
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遠い昔、親と共に食べに行った記憶が有ります。
満員で並んで待ち、2階に上がる階段の裏側でせせこましく食べました。
国分の「政美」(その頃は一杯70円)と「のぼる屋」は、私にとって
鹿児島ラーメンの原点です。
そうですか、一杯千円ですか。